生体機能研究会 放射線リスクの現状
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放射線リスクの現状

 ここでは、生物学にせよ、放射線にせよ、サイエンスに関しては素人である私たち一般人の視点から放射線リスクを整理してみました。
 私たちには少しは放射線影響の知識もありますが、素人であることには変わりありません。 しかし、本当のことを知っておく必要があるのは実際に被ばくすることのある私たち一般人です。
 重要なのは、放射線リスクの実態や事情を知ること、そして私たちが知りたいことが何なのかをはっきりさせることです。

I. 放射線リスクの考え方とその根拠
1.しきい値なし、直線仮説
(高線量のデータ)
1)高線量での直線的ながんリスクの増加→低線量でも成り立つと仮定する。
  (高線量でのがんリスクの直線的な増加は、原爆データから)。
2)遺伝子の傷害(遺伝子だけの実験、培養細胞での実験)は線量とともに増加
  →がんに結びつく可能性があるとする。
3)ショウジョウバエの精原細胞の突然変異が線量にともなって増加。

(低線量のデータ)
1)ショウジョウバエの精原細胞の突然変異が線量にともなって増加。
2) 原爆データ(2003)(高線量率)ではじめて直線的ながんの増加が認められた。
3) 15カ国の原子力関連施設従業員の疫学でがんの増加が認められた。
    (直線的かどうかはわからないが、少しでも危険だという根拠)
    *問題だらけ(素人にもわかるようなデータ操作)

過去数十年にわたって社会の基準となってきたが、ヒトに適用できるデータ的には非常に乏しい。 いうまでもなく、国際的に放射線防護行政の基準として採用されてきたために、最も権威がある。しかし、科学的な根拠は十分でなく、この説は政治的な意味合いで支持されている。
→ 社会的な取り決めとして考えておくべき。

2. しきい値あり、少しなら安全説
  ヒトに関する疫学データは、ほとんどここに含まれ、たいていはがんの増加は見られない。しかし、疫学調査の限界があり、統計的にがんの増加が見られないからと言って、絶対にないかどうかは分からない。
(直線仮説側からの意見は、過去の疫学調査では増加は見られなくても、もっと多人数の調査をすれば害が数値として現れるだろうということになる。間違っていない。)
これが一番常識的。
  普通は、少しくらいなら大丈夫じゃないかと考える。しかし、実際に仕事で毎日何十年も受けたり、放射線検査を繰り返し受けたり、また原発の近くに住んでいたり(現実にはほとんど放射線は受けていないのだが)すると、可能性が低いのなら大丈夫じゃないか、とは言えない。少しでも可能性があるなら、自分が不運にもがんにならないとは限らない。
→ 一番常識的だが、結局は本当のことは分からない。

3. 少しなら有益説
放射線ホルミシスと呼ばれる考え方。
(細胞・動物実験データ)
ほとんどの場合、照射(100〜500ミリシーベルト)して何時間後かに防御機能が向上したというもの。しかしその効果はたいてい1日くらいで終了する。ヒトでの現実性が全くない。
(ヒト疫学データ)
いくつかの疫学データでは、低線量の領域でがん死亡が低下していると主張。疫学データの中から、いくつかの例を集めているが、その他の膨大な数の疫学データではそのような現象は見られていないので、都合のよさそうなデータだけを集めているように思える。さらにそれらのデータを詳細に見ると、強引な解釈に過ぎないことが多い。
 → 現時点では、ヒトの現実的な放射線リスクを考える根拠として使えない。

4. 直線仮説よりさらに危険説
 最近、出現した考え方。 根拠は、細胞実験で見られるバイスタンダー効果(*)や、遺伝子の不安定性(*)など、実際に被ばくしていない細胞にも被ばくの影響が表れる現象。
 このために、放射線を受けた細胞だけの問題として考えられてきた直線仮説の仮定よりも実際の影響は大きいはずだとされる。この仮説は現時点では細胞を用いた実験上のものにすぎないが、環境保護団体や原発反対派などが大きく取り上げている。
今のところ特殊な実験事例からの仮説でしかない。 →現時点では、ヒトの現実的な放射線リスクを考える根拠としては使えない。

(*) バイスタンダー効果:
 マイクロビームを用いてある特定の細胞だけに放射線を照射した場合に、隣接する細胞にも、実際に放射線を受けていないにもかかわらず受けた場合と同様の害が見られるという実験から明らかになった現象。この場合、放射線の害は実際に受けた放射線の量の数倍にもなる。ギャップジャンクションという細胞間にある孔を通って伝達物質が伝わってゆく、あるいは被ばくした細胞が細胞外に物質を放出すると考えられている。
(*) 遺伝子の不安定性:
 放射線を受けた細胞の子孫(細胞分裂をしてできる細胞)では、何代もあとでも遺伝子の突然変異が起こりやすくなるという実験に見られる現象で、放射線を受けると何かが変化し、それが代々受け継がれてゆくというもの。実際に放射線を受けていない細胞にも害が現れることになる。


II. いま確かなこと
 「ヒトが100ミリシーベルト以下の放射線を受けたときに、多くのデータでは、がんの増加は見られない。しかし、中には非常に小さな確率だが、がんが増加する、というデータもある。」

 事実という意味で言うなら、これが今分かっていることであり、基本的な出発点です。
 上で述べた説は、すべてこのような現状の上での主張です。つまりこの現状をそのまま認めたくなく、それぞれに推測したモデルを結論的に主張しているわけです。
 本来の科学研究の世界では、その時点で分からないことは、分からないとして次に新たな事実が明らかになるのを待つことになるのですが、ここでは今わからないにもかかわらず、強引に説を主張し合って白黒つけようとしています。普通の科学の世界ではあり得ないことでしょう。
 これが放射線関連の研究の特殊なところです。
 放射線は単なる科学研究の対象ではなく、社会の一部なので、科学的な事実だけでは済まず、いろいろな思惑や利害が関係してくるということでしょう。
 科学という名目の上で、公表されるこれらの主張は、実は政治的、営業的、思想的そして個人的な利害に大きく支配されているようです。私たちはそのことを知らずに純粋に科学的真実だと受け取るので、こうした主張のいずれにも振り回されてしまいます。
 “どんなに少しの放射線でも危険だ”と言われれば怖がるし、“少しなら安全だ”と言われれば安心するし、“少しなら有益”と言われれば期待するし、また“本当はもっと危険だ”と言われれば逃げ場がなくなるのです。
 これはすべて科学だという名目があるせいです。

 ここで、はっきりしておきましょう。 現在、科学的に公正な立場では、はっきりと安全/危険という主張はできません。したがって、強引に安全/危険を主張するものは何であれ、科学としてはおかしいと言ってもいいでしょう。
 私たちにとって重要なのは、主張する人の声の大きさにごまかされずに、あくまで科学的に正しいかどうか、という判断の基準を見失わないことです。言うまでもなく、体の中のできごとは、権威や肩書きが決めるのではなく、生物学的事実が決めるのですから。

III. 放射線リスクの現状の整理
 放射線リスクというと、私たちは“公正な科学的事実”の内容と考えがちですが、実際には以下のようなものです。私たちは、まったく異なるこれらの内容を、ただ「放射線リスク」という名前だけで、無批判に受け取ってしまうのです。

1) 公正な科学的事実としてのリスク
安全危険に関しては、“絶対にこうだ”というものは分かっていない。ほとんどのデータでは、がんが増加するということはないが、中には非常に小さな確率だが、増加しているものもある。(結論的にこうだと決めることはできないし、公式は作れない。)
2) 仮説として勝手に主張されるリスク
すべて、結論的に“絶対にこうだ”と決めつけて勝手に公式にしている。いろいろな思惑や利害が背景にあるため。
3) 社会的な目的で決められたリスク
放射線防護の基準として“しきい値なし直線仮説”が採用され、社会の規則として必要な公式を決めている。

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